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臨床や経営に関する著名医師によるコラム Opinion


歯科医院経営には、幅広い知識と経験が求められます
本連載企画では、歯科領域にまつわる様々な分野でご活躍中の方々に、
多彩な経験やデータ等から導き出された見解・持論をシリーズで語っていただきます。

  • ストック型予防医療の理論と実践
  • 「原点」に返り「未来」を見据える歯科医院経営
  • 自費根管治療のススメ
  • 歯髄幹細胞は歯髄に欠かせない細胞
  • ホープレスの歯に立ち向かう
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ストック型予防医療の理論と実践

FEEDNOTE No.58 掲載記事

おもてなしメインテナンス5

今回は最後の項目『④潮流』についてお話しします。

これまで、患者さんの気持ち、スタッフのやりがい、医院の売上についてお話ししてきました。その上で、最後に潮流、すなわち歯科衛生士の未来について考えていきたいと思います。

まず大前提として、歯科衛生士として生き生きと仕事をしていくためには、時代の流れの変化に順応していかなければなりません。一昔前の歯科は、削って詰める、悪いところを治して終わり、それが当たり前の時代がありました。歯科衛生士と歯科助手の違いですらほとんどなかったのではないでしょうか。それが今では予防の時代。そもそも口腔内が悪くならないようにする、ということを大切にする時代です。その変化とともに歯科衛生士の働き方や価値もどんどん変わってきていると思います。では、これから先はどうなっていくのでしょうか。

近年、幅広い分野でAI(人工知能)の導入が進んでいます。AIに代替される仕事はとても多いと思いますし、今後さらにロボット技術が進めば、歯科業界でもAIを導入する日が来るかと思います。ただ、歯科衛生士すべての業務において、AIが代替可能でしょうか?私は、答えはNO、だと思います。

歯科衛生士の仕事は、歯石除去、PMTC、歯周病予防など様々な業務がありますが、例えば、データの解析や管理、画像解析などの情報処理は、AIを使うことで見落としが減り、生産性が向上したり、コスト削減できたりと、業務を効率よく行なっていけると思います。ですが、AIにも苦手なことがあると考えます。それは、「人の気持ちを汲み取ること」です。患者さんとのその場の雰囲気で臨機応変に判断を変更したり、相手との距離感を見極める、などの対応は、AIではなく人だからこそできる行為です。相手の言葉にどのような真意があるのか、その場の空気を読みながらコミュニケーションを取るというケースは臨床だけでなく日常でも多々あると思いますが、そのような行動は、現在のAIにとっては難しいと考えます。口腔内の状況を把握し、患者さん一人一人に合った口腔ケアや、歯ブラシ指導などを行う歯科衛生士の業務は、合理性だけでは到底担えない仕事です。

患者さんの思いを聞き、その思いを形にすることが大切な仕事です。これはAIの技術だけでは成し得ないことです。AI技術が進化する中で、これからは人とのコミュニケーションを取れる人の価値はどんどん高まっていくと思います。会話の中から、その人の趣味嗜好だったり生活背景、考え方を知り、そして対峙する回数を通してより理解を深め、信頼関係が生まれていきます。やはり医療にとって重要なのは人です。患者さんと直接会話をし、症状や不安に思っていることを共有し、心理的にサポートできるのも人です。なので、技術とコミュニケーションをかけ合わせ患者さんと通じ合うことができたら最強ではないでしょうか。

今まで4つの項目に分けお話ししてきました。歯科衛生士として自信を持ち、どんな環境に置かれてもしっかり機能していくにはどうすればいいのか。どのようなモチベーションを持ち、どのような考え方を持っていけばいいのか。終わることのない課題です。

この『おもてなしメインテナンス』を通じて、歯科衛生士として在り方を見つめ直すきっかけになればとても嬉しいです。

辻村 傑
辻村 傑 profile つじむら歯科医院グループ 総院長
1993 神奈川歯科大学 卒業
1995 つじむら歯科医院 開業
1997 医療法人社団つじむら歯科医院 開設
2008 神奈川歯科大学生体管理医学講座 薬理学分野大学院
2010 南カリフォルニア大学客員研究員、アンバサダー(任命大使)
2013 インディアナ大学歯周病学客員講師
2014 神奈川歯科大学 顎咬合機能回復補綴医学講座 講師
2017 IDHA: 国際歯科衛生士学会 会長就任