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臨床や経営に関する著名医師によるコラム Opinion


歯科医院経営には、幅広い知識と経験が求められます
本連載企画では、歯科領域にまつわる様々な分野でご活躍中の方々に、
多彩な経験やデータ等から導き出された見解・持論をシリーズで語っていただきます。

  • ストック型予防医療の理論と実践
  • 「原点」に返り「未来」を見据える歯科医院経営
  • 自費根管治療のススメ
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ストック型予防医療の理論と実践

FEEDNOTE No.30 掲載記事

歯周治療におけるアンチバイオティクスの使用方法

歯周基本治療における抗菌薬療法として、SRP時の臨床的治療効果の促進と菌血症の抑制のための使用について考えてみます。

? SRP時への応用

歯周基本治療時における経口抗菌薬や薬剤伝達法によるポケット内への局所投与において、薬剤のみの単独使用では決して良好な結果を得ることはできません。

ポケット内に形成されたプラークはバイオフィルムとして存在しており、薬剤に対して抵抗性をもつことから、SRPによる機械的バイオフィルム破壊と組み合わせて行うことで、その効果を最大限に発揮することができるといえます。

? 菌血症の予防投与

歯周治療ではSRPを含め、治療時には菌血症を生じることはよく知られています。菌血症に対しリスクの高い細菌性心内膜炎、動脈弁膜症、人工弁、チアノーゼ性先天性疾患などにおいては、予防策として術前に経口抗菌薬を投与することが必要となります。この目的に用いる抗菌薬は、第一次選択としてペニシリン系、セフェム系が選択されます。抗菌薬投与2~3日後に口腔内の細菌が最も減少することから、処置はこの時期に行われるべきであり、術後もさらに3日ほどの抗菌薬投与を行うことが必要と考えられます。従って約6日以上の抗菌薬の効果を持続させることで菌血症の影響を最少に抑えることができると言えます。

しかし、マイクロバイオームの健康層育成のためには、可能な限り薬剤以外で菌血症を抑制できることが理想であり、最近、歯周薬物療法に対する私からの新しい提案としてプロバイオティクスの活用と併用をお勧めしています。

アンチバイオティクスとプロバイオティクス

歯周薬物療法の目的は、ポケット内細菌叢を総菌数に占める歯周病原細菌の比率を低くし、歯周病を発症、悪化させない安定した細菌叢とすることとなります。しかし、一時的にこの目的が達成されたとしても時間の経過とともに、薬物療法によるアプローチではポケット内細菌叢は徐々に歯周病原細菌の比率が高くなってしまいます。薬剤単独で、良好なポケット内細菌叢を維持するためには繰り返しの薬物投与が必要となる場合が多くありますが、薬物の連用は耐性菌の出現など幾つかの問題を同時にもつこととなります。

この問題点の解決の一つとして、病原性の高いバイオフィルムが術前検査で確認されたケースにおいてはアンチバイオティクスにより簡易・短期的に細菌叢を変えた後、プロバイオティクスによりその細菌叢を維持することを私は現在日常臨床で推奨、実践しています。

プロバイオティクスにより積極的に細菌叢を変えるという方法も考えられますが、すでに高リスクに存在する歯周病原性細菌を駆逐し変えていくことは不確実であり、また、無駄に時間がかかると考えられます。これに対しアンチバイオティクスにより細菌叢を変えた後にプロバイオティクスを適応することにより細菌叢を維持する方が、より早く確実に効果を上げることができるのではないかと考えられます。

これからの抗菌療法は、治療の流れのなかでアンチバイオティクスとプロバイオティクス、それぞれの利点を生かしながら組み合わせて用いることが有効だと考え、規準を設けた抗菌薬の最小限の使用とプロバイオティクスの最大限の活用導入を行うことで、マイクロバイオーム中の歯周ポケット内悪玉細菌量を減らし、病原性を低下させ、健康層のマイクロバイオーム獲得を目指すことが重要であると言えます。

※参考文献:鴨井久一著 口腔プロバイオティクス・アンチバイオティクス 永末書店

辻村 傑
辻村 傑 profile つじむら歯科医院グループ 総院長
1993 神奈川歯科大学 卒業
1995 つじむら歯科医院 開業
1997 医療法人社団つじむら歯科医院 開設
2008 神奈川歯科大学生体管理医学講座 薬理学分野大学院
2010 南カリフォルニア大学客員研究員、アンバサダー(任命大使)
2013 インディアナ大学歯周病学客員講師
2014 神奈川歯科大学 顎咬合機能回復補綴医学講座 講師
2017 IDHA: 国際歯科衛生士学会 会長就任