FEEDNOTE No.35 掲載記事
「想像力は知識に勝る」というアインシュタインの言葉は、私がいつもプレゼンで使用する大好きな言葉です。
破折器具除去のハンズオンコースを開催させていただくと、必ずといっていいほど「根管内のどのあたりをどの程度形成すればよいのか、覚え方を教えてください。」といった趣旨の質問を受けます。私は常に、「その症例によって違いますので覚えても無駄です。プロトコールを理解した上で破折器具が根管のどこに引っかかっているのか、想像力を働かせてください。」とお答えしています。皆様、「そんなもんなのかなあ」と少し腑に落ちない顔をなさいます。
しかし、「全体のバランスを想像しながら、壁にかける絵画のフックの位置を決める」など、わたしたちは日常生活の中で無意識のうちに「完成時の姿を想像する」ことを頻繁に行っています。同様に、CTとX線画像を見ながら「根管内のどこに破折器具が引っかかっているのか、なにを叩けば器具がリリースされるのか」を想像することで驚くほど容易かつ楽しく破折器具が取り出せるのです!また、こうした「知識がベースになった想像力」は色々なところに応用可能です。例えばファイルの断面を見る事で切削可能エリアが3次元にイメージできますと、患者さんの歯を削りすぎずに形成を完了するにはどのファイルが最適なのか、多面的に判断可能になります。
そして治療計画の策定も容易になります。「治療計画」は、とても多くの方が苦手とされている分野なのですが、知識に基づいた想像力を訓練することで、CT・X線画像の影の要因、その取り除き方が、「とりあえずやってみよう」という不確実性にとんだものではなく、「患者さんの痛みの原因とやるべき施術、更には治癒までの時間」がキレイなストーリーになって浮かび上がってくるようになります。そして、この「ストーリー」を患者さんに分かりやすく説明できるようになれば、「どんな患者さんもWelcome」 の自費診療クリニックが実現可能になります!
ここ数か月、新型コロナウィルスを要因とする一連の制限により、海外の学会や講演会が軒並み中止となったことからクリニックで腰を据えて診療にあたる時間が劇的に増加しました。「こんな特徴のモーターやファイルがあればいいのに」、「MTAの組成をこのように微修正したらどうなるのだろう?」と想像が止まらなくなり、遂には根管治療に使う器材をほぼフルラインで設計図を書いてしまいました。現在、この設計図を現実のものにすべく、中国・ポーランド・ドイツ・ロシア・韓国の企業に打診中です。果たして設計図の器材達がわたしの想像通りに機能してくれるのか、ワクワクしているところです。
ところで、先日、知り合いの先生方とゴルフに参りました。ゴルフボールとグリーン上の旗をしげしげと見比べながら、大いに想像力を働かせつつ、ゴルフクラブの角度を生かしてショットを続けましたが、うまくいきません。想像上ではボールはホールに吸い込まれるはずなのに現実はさっぱりです。どうやら私には、「歯科では必要ないけれどゴルフでは必要不可欠」な「筋力」が不足している模様です…。