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臨床や経営に関する著名医師によるコラム Opinion


歯科医院経営には、幅広い知識と経験が求められます
本連載企画では、歯科領域にまつわる様々な分野でご活躍中の方々に、
多彩な経験やデータ等から導き出された見解・持論をシリーズで語っていただきます。

  • ストック型予防医療の理論と実践
  • 「原点」に返り「未来」を見据える歯科医院経営
  • 自費根管治療のススメ
  • 歯髄幹細胞は歯髄に欠かせない細胞
  • ホープレスの歯に立ち向かう
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FEEDNOTE No.35 掲載記事

歯髄細胞移植で歯髄を再生させることは可能か?【後編】

歯内治療は、永久歯と乳歯、そして、歯根完成歯と未完成歯で治療法が異なる。一般的に、永久歯で歯根完成歯の抜髄後は根管充填を行うが課題もある。では、抜髄後の理想的な治療法はどんな治療法でしょうか?その答えとなる一つが、歯髄を元通りに機能させること、すなわち、歯髄を再生させることと考える。読者の多くの方はすでに歯髄細胞を抜髄後の根管内に移植すると歯髄が再生することを知っているでしょう。しかしながら、この歯髄再生治療は、ほんの一部の機関だけで行われているにすぎません。この治療が開業されている先生方の日常の臨床で活用できなければ国民の皆さんには届きません。では、一般の治療として確立するための課題を挙げると、安全性、治療効果そして治療費だと思われる。そこで、このコラムでは、これまでの論文化されている臨床報告から安全性についての回答を考える。

歯髄細胞移植の臨床例をPubMed検索すると、かれこれ10年も前の2009年イタリアのPapaccioらの報告が最も早い。第三大臼歯を抜歯後に第二大臼歯遠心歯槽骨の再生目的で、抜歯窩に患者さんの上顎第3大臼歯から採取した歯髄細胞を移植した。移植2か月後のX線写真で細胞移植群において、歯髄移植無しの群よりも骨の再生が促進した。骨再生を目的とした臨床例は他にもある。2013年イタリアのCarinciらはインプラント治療を希望する患者の上顎洞挙上術後に歯髄細胞を移植して骨を再生した。この症例も右上第3大臼歯から歯髄を採取し、細胞移植4週後にインプラントを埋入した。2018年スペインのArteagoitiaらは30人の患者さん(18歳から32歳)に、第3大臼歯の抜歯窩に歯髄細胞移植を行ったが、有意な差は認めなかったようだ。これらの3つの報告から、骨の欠損部に細胞を移植しても副作用や合併症はおきていない。この理由として、医科で行われている静脈内点滴と異なり、細胞の投与方法が局所投与であること、また、自家細胞であることが考えられる。

次に、歯髄再生を目的とした歯髄細胞移植を検索すると2つのグループの報告があった。愛知県大府市にある国立長寿医療研究センターのNakashima先生らは、自家歯髄細胞移植で歯髄再生に成功した。2013年4月から5人の患者さん(20歳から44歳)に抜髄後の根管に歯髄細胞を移植した。歯髄は第3大臼歯から採取した。数か月後の電気歯髄診断で、移植した患者さん全員に陽性反応があった。中国の広州にある中山大学歯学部のShi先生らのグループは、2013年の6月から2014年の12月の間に26本の歯に歯髄細胞移植による歯髄再生治療を行った。対象は、外傷によって歯根未完成歯の歯髄壊死した切歯で、7歳から12歳の小児である。対照群は通法のアペキシフィケーションの治療を行った。細胞移植後12か月の電気歯髄診断で、すべての症例に陽性反応が認められ、驚くことに細胞移植群では歯根の伸長も見られた。これらの報告の中でも、細胞移植による合併症や副作用の記載はなかった。

論文を検索していると面白い論文を見つけた。歯髄細胞で歯周組織も再生できるようだ。2018年イタリアのRomanoらは、11人(平均年齢51歳)の慢性歯周病の患者に、自家歯髄細胞を歯周組織の欠損部に移植したところ歯周組織が再生した。この論文にも、合併症や副作用についての記載はない。さらに、論文検索を進めるとさらに驚くことに、自分の細胞ではなくて、他人の細胞を移植した論文を見つけた。再生医療学会では、医科の領域ですでに他人の細胞が移植されている疾患の発表をみているが、歯髄の細胞では聞いたことがない。2018年メキシコのMendoza-Nunezらは、61歳男性の下顎歯周組織欠損部に、7歳の乳歯から採取した歯髄細胞を移植したところ、術後6か月のCT撮影で骨の造成が確認されている。他人の細胞でも、組織が再生することになれば、多くの患者さんに応用できる治療に発展する。

さて、今回のコラムをまとめよう。今回紹介した7つの報告において、合併症や副作用の記載はない。つまり、歯髄細胞を局所に投与しても、その安全性はかなり高いことが明らかになったといえる。しかし、他人の細胞移植については、まだ、1例のみの報告であり、不明な点も多い。次回は、今回紹介した論文の治療効果について概説したい。

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本田 雅規 profile 愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・主任教授・歯科医師・医学博士・セルテクノロジー学術顧問

ボストンにあるフォーサイス研究所にて、世界で初めて歯の再生に成功してから現在まで継続中。
愛知学院大に移ってからは、トランスレーショナルリサーチの実現も目指し、臨床系講座と協力しながら歯科領域における細胞治療を開発中。

1989年 愛知学院大学歯学部卒業
1993年 名古屋大学医学部口腔外科学講座・医員
2000年~2001年 ハーバード大学・フォーサイス研究所・客員研究員
2003年~2007年 東京大学医科学研究所・幹細胞組織医工学・助手・助教
2008年~2014年 日本大学歯学部・解剖学第2講座・講師・准教授
2015年~現在 愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・教授