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臨床や経営に関する著名医師によるコラム Opinion


歯科医院経営には、幅広い知識と経験が求められます
本連載企画では、歯科領域にまつわる様々な分野でご活躍中の方々に、
多彩な経験やデータ等から導き出された見解・持論をシリーズで語っていただきます。

  • ストック型予防医療の理論と実践
  • 「原点」に返り「未来」を見据える歯科医院経営
  • 自費根管治療のススメ
  • 歯髄幹細胞は歯髄に欠かせない細胞
  • ホープレスの歯に立ち向かう
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FEEDNOTE No.31 掲載記事

歯髄幹細胞移植による歯髄再生は可能 【前編】

前回のコラムでは、我々の歯髄の中における歯髄幹細胞の役割について学びましたので、今回は歯髄再生の話をしましょう。

近年の歯科医療は、歯髄を温存する治療が推奨されています。しかしながら、どうしても歯髄を取らなければいけない時に「歯髄の再生」治療法があれば、選択肢の一つになります。歯髄を失うと再感染や歯根が破折する頻度が高くなるので、歯の延命には「歯髄」が必要だからです。筆者の臨床経験ですが、う蝕除去中に露髄したとき「あ!」と声がでそうになります。露髄時は直接覆罩法による歯髄温存療法を選択します。治療後「痛みがでないように、象牙質ができるように」と祈ったものです。これは、「もしかしたら、痛みが出て抜髄になってしまうのでは」との不安からです。

ここからが今日の本題です。適切な処置を行えば覆罩剤の下部に象牙質(デンチンブリッジ)は形成されますが、どのような機序なのでしょうか?
恥ずかしいことに卒業間もなくは、この機序のことも考えずに治療をしていました。

話は前後しますが、歯髄の再生に進めます。歯髄の再生の治療は、二つに分類されます。第一は、歯髄と象牙質の一部の再生です。これは、歯髄を残した状態で、歯髄と象牙質を再生させることです。露髄した時の直接覆罩法がこれに該当します。二つ目は、抜髄後の空洞になった根管内に歯髄全体を再生することです。これらの二つの方法で決定的に異なることは、歯髄が残存しているか、いないかです。つまり、歯髄が残存していれば、歯髄の幹細胞も存在しているからです。

話を直接覆罩法に戻します。露髄した部位の象牙芽細胞はすでに死滅していますので、どのようにしてデンチンブリッジができるのでしょうか? 歯冠部の歯髄の組織像を見ましょう(図1)。象牙質側から、象牙芽細胞層、細胞希薄層、細胞稠密層の三層があります。稠密は「ちゅうみつ」と読みますが、学生さんには難しい読み方です。この象牙芽細胞層と細胞稠密層の間に少しの空間(細胞希薄層)が、歯冠部にあるのですが、歯根部には見られないということを歯学部生の時に習いました。さて、何のための空間でしょうか?

図1

読者の先生方は、そんなことはわかっていますよ、という方ばかりだと思いますが、象牙芽細胞が細胞死したときに、象牙芽細胞層に新しい象牙芽細胞を送りこむために、細胞稠密層の前象牙芽細胞が待機していると考えています。

では、う蝕を除去中に細胞稠密層までが破壊された場合はどうでしょうか? 歯髄幹細胞の登場です。歯髄幹細胞が象牙芽細胞に分化しながら、覆罩剤の直下に移動して、デンチンブリッジを作ると考えています。

もう一つ追加で、お話ししたいことは、すでに、歯科医師は、歯髄温存療法で歯髄幹細胞を利用した治療をしていることになります。「へー」って思っていただいた先生がおられましたらお話ししてよかったです。
(つづく)

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本田 雅規 profile 愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・主任教授・歯科医師・医学博士・セルテクノロジー学術顧問

ボストンにあるフォーサイス研究所にて、世界で初めて歯の再生に成功してから現在まで継続中。
愛知学院大に移ってからは、トランスレーショナルリサーチの実現も目指し、臨床系講座と協力しながら歯科領域における細胞治療を開発中。

1989年 愛知学院大学歯学部卒業
1993年 名古屋大学医学部口腔外科学講座・医員
2000年~2001年 ハーバード大学・フォーサイス研究所・客員研究員
2003年~2007年 東京大学医科学研究所・幹細胞組織医工学・助手・助教
2008年~2014年 日本大学歯学部・解剖学第2講座・講師・准教授
2015年~現在 愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・教授